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2006年6月 3日 (土)

とこしえに、きみのしもべ。

『愛しすぎた男』パトリシア・ハイスミス著
(扶桑社ミステリー 1996年訳)


Fi2601958_0e 紡績会社に勤める技術者デイヴィッドは、 真面目で親思いの好青年として、下宿先の大家や同じ住居人たちにはすこぶる評判がいい。なぜなら彼は週末は必ず、療養所にいる病気の母親と一緒に過ごすために別の町に出掛けていくからだ。でも本当の行き先は、彼自身が偽名で購入した人里離れた一軒家。そこで彼は、思いを寄せる人妻アナベルと一緒に暮らしていることを妄想しながら独りで週末を過ごすことで、胸に抱えた嫉妬心から束の間の解放を得るのだった…。


ストーカーを題材とする、1960年刊行のサスペンス小説。
ストーカー・サスペンスというと、通常はストーカーされる側の心理、または、する側される側の心理を交互に描いているものがほとんどだと思うのだけど、これはストーカー男の側からのみ描かれる。だから原題は “This Sweet Sickness”。周囲の人物は彼に対する態度や、彼に何を言ったかでしか登場しない。おまけにこの小説には、相手を恐怖に陥れるような露骨なストーキング行為はほとんど登場しない。男は極めて紳士的に、頻繁にラブレターを送ることによって、なんとか彼女に再会し、説得しようと試みる。
こう書くと、なんだか地味なサスペンスのようだけど、一つ二つのウソがばれて、周りから追い込まれるうちに、思いと行動の間にズレが生じ、主人公自身、最初はそれに戸惑いながらも、ゆっくりゆっくりと正気らしきものを失っていく過程の描き方が実にうまくて読ませる。さすがハイスミスか。

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