インデックス

つぶやき

2012年1月22日 (日)

もう一つのトントン・マクート伝説 〜『ミスター・クラリネット』ほか

『ミスター・クラリネット』ニック・ストーン著/熊谷千寿訳
(RHブックス・プラス 2011年邦訳)

生きて連れ帰れば1000万ドル、死体でも500万ドル。それが行方不明の少年チャーリーの発見にかけられた報償金だった。依頼人はハイチの実業界を牛耳るカーヴァー一族。出所したばかりの元私立探偵マックス・ミンガスにとっては喉から手が出るほど欲しい金だ。だが、行く先はヴードゥーの呪術と占いが力をふるう、法なき地ハイチ。しかも、前に雇われた3人の探偵は全員が悲惨な目に! 危険覚悟で旅立ったマックスを待っていたものは…。(文庫カバーより)

Mrclarinet ハイチにルーツを持つイギリス人作家によるハイチを舞台としたアメリカ人探偵が主人公のハードボイルド小説。CWAスティール・ダガー賞とマカヴィティー最優秀新人賞受賞作。

首都ポルトープランス近郊で起きた2年前の大地震によって長らく政府機能も麻痺してしまい、いまだ55万人が仮設テント暮らし、加えて国連派遣団が持ち込んだコレラ菌感染により7000人が死亡など踏んだり蹴ったりな惨状が伝えられるハイチだが、それ以前からこの国に関しての情報はネガティブなものがほとんどだ。この本の中で語られるハイチの状況や歴史もとても重苦しい。そういった見方を少しでも変えられる要素が欲しかった。といったら贅沢かな。誘拐犯の動機が輪をかけてヘヴィー。

Mr.Clarinetのタイトル、探偵の名前はチャーリー・ミンガスやマックス・ローチを想像させ、ジャズ発祥の地ニューオリンズとも縁のあるヴードゥーの要素。これはきっと音楽ネタも豊富に違いないって思ったんだけど、そういうわけではなかった。表紙のイラストをマティスの「Jazz」という作品とだぶらせていたせいもある。後でよく見たら呪い針が刺さったヴードゥー人形だった。目に入るものへの意識が散漫すぎるだろ私。


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『解錠師』スティーヴ・ハミルトン著/越前敏弥訳
(ハヤカワ・ミステリ 2011年翻訳)

マイクは幼少時にある事件に巻き込まれ、そのショックから口がきけなくなってしまう。酒場を営む伯父に育てられながら、孤独のうちに彼は2つの才能を開花させていく。ひとつは絵を描くこと。もうひとつはどんな錠も開けることができる特技。しかし、その特技はマイクが高校生のときに犯罪組織に目にとまってしまい、プロの金庫破りへの道を歩むことになる…。

Lockartist これもCWAスティール・ダガー賞に、さらにMWAエドガー賞最優秀長篇賞、バリー賞最優秀長篇賞、全米図書館協会アレックス賞受賞と前評判がすごい。
しかし、ちょっと期待しすぎたかも。金庫破りの技に焦点を当てた点はユニークだが、主人公が好きで犯罪に手を染めるようになったわけではなし、プロになって1年ほどで逮捕されてしまうので、職人気質を見せつけられわくわくさせられるような犯罪小説とは違う。

で、青春小説という点からみると、10代から20代にかけての10年以上を刑務所で過ごすってのは、この年代からしたらあまりに長い歳月で、初恋の代償としては重すぎる気がする。

物語の中ではすっ飛ばされてしまったこの10年は、いったいなんだったのだろうという思いが、自分の中にくすぶってる。そろそろ刑期を終える時点での回想という形をとったのは、最後に感動を添えるためだろうけど、かえって嘘くさくなってしまった。


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『説教師』カミラ・レックバリ著/原邦史朗訳
(集英社文庫 2010年邦訳)

夏の朝、洞窟で若い女の全裸遺体と朽ちた古い遺体が2体見つかった。休暇中のパトリックだったが、妊婦のエリカを気遣いながらも捜査を指揮することに。検死の結果、新旧遺体は二十数年を挟んで全く同じ方法で惨殺されたことが判明、捜査線上に今は亡きカリスマ説教師の呪われた一族が浮上する…(文庫カバーより)

Predikanten スウェーデンのエリカ&パトリック事件簿の第2弾。前作もそうだったけど、読み終わってしばらくしたら事件の内容をほとんど忘れているのはなぜだ! でも、エリカとパトリック周辺のさまざまな人間模様を盛り込みながら、事件には奥行きがあり、謎解きもしっかりしていて面白いシリーズには間違いない。

個人的に強力な印象を残すのは、海辺のリゾート地・フィエルバッカに住むエリカとパトリックの家にサマーバカンスになると代わりばんこにやってきてずうずうしく居座る知り合いたちだ。夕食として用意したあげた深皿いっぱいの小エビにいきなり両手を突っ込んで、ほかの人の分など考えることもせずごっそりと自分の皿に取り分けるふだんは疎遠の従兄弟とか。おかしな教育論にかぶれて子供を他人の家で暴れたい放題にさせておくその妻とか。自分たちは庭のデッキチェアに寝そべりながら臨月のエリカをホテルの従業員のように使い倒すパトリックの旧友夫婦とか。こういう人たちいるいる!すげー分かる!という感じで、メインのストーリーとはぜんぜん関係のない部分も楽しい。当然しっぺ返しも用意されているので気持ちよく読めます笑

2012年1月15日 (日)

R.I.P. レジナルド・ヒル

最初に読んだのは95年に文庫化されたダルジール&パスコーシリーズ『骨と沈黙』だった。著者初めての文庫だったし、話題作だったから、そういう読者が他にもかなりいたのではないかと思う。ヒルの小説を表すときに衒学的という言葉がよく使われるけれども、『骨と沈黙』はまさにそういう作品で、正直いって当時の私には歯が立たないくらい高尚に感じられた。

取っ付きにくい。でもなんとか読み終えたときの充実感が素晴らしく、他の作品にも手を出したが、あら不思議。ダルジールなどの主要キャラクターを把握してしまうと、随所に散りばめられたユーモアも理解できるようになり、ちょっとした会話にも滋味があふれ、強烈な皮肉もよいスパイスとなって、めっちゃ面白い!それからは、過去の出版物をあさって読みまくり、最愛といってもいい作家さんになった。

昨日飛び込んできた75歳での死は少なからずショックだった。P・D・ジェイムズみたいにまだまだ元気で作品を発表してくれると信じ込んでいた。実はがんで長らく闘病生活を送っていたという。

The Telegraphの記事

いくつかの訃報記事などを見ると、ヒルは文学でも大いに才能を発揮しただろうが、その性格からトリックを仕掛けずはいられなかったというようなことが書いてあった。慎ましやかでいたずら好きともいえるヒルの性格は、作品を通じてもしっかり感じ取ることができ、そんなところがまた好ましかった。

父親がプロのサッカー選手だったこと、子供がいなかったことなどは初めて知った。作品からきっと孫には良いおじいちゃんだろうなんて想像してたんだけど。

いくつもの作家名を使い分けており、レジナルド・ヒルとパトリック・ルエル名義で翻訳されたものはすべて読んだつもりでいた。が、いま確認したら短篇集の『最低の犯罪』がうっかり本棚に積ん読のままになっていた。うれしいんだか、悲しいんだかわからない。

代表的作品はもちろんダルジール&パスコーシリーズ(20作品以上)で、個人的にはどれが一番好きとか決められない。とにかくどれも完成度が高いのがすごいところ。加えて最近の作品はますます、良い意味でエンタメ度を増してしたと思うから残念だ。パトリック・ルエル名義の小説も、男女の恋愛を絡めて、映画を見ているような雰囲気と余韻があって素晴らしい。

調べてみると、最近の作品ではノンシリーズの「The Woodcutter」 (2010)が今後翻訳される可能性がありそうだし、本国では2013年に最後の作品が出版予定のようだ。闘病生活を送りながら書き続けたということだろうか。この作品がダルジール&パスコーシリーズであってくれることを願う。そしたら、気持ちのなかでちゃんとお別れができそうだから。

2011年12月 8日 (木)

デンマークの警察小説シリーズ2作目 〜『特捜部Q ーキジ殺しー』

『特捜部Q ーキジ殺しー』ユッシ・エーズラ・オールスン著/吉田薫・福原美穂子訳
(ハヤカワ・ミステリ 2011年邦訳)


「特捜部Q」――未解決の重大事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の新部署である。見事に初の事件を解決したカール・マーク警部補と奇人アサドの珍コンビ。2人が次に挑むのは、20年前に無残に殺害された10代の兄妹の事件だ。犯人はすでに収監されているが、彼一人の犯行のはずがない。事件の背後には政治経済を牛耳るあるエリートたちの影がちらつく。警察上層部や官僚の圧力にさらされながらも、カールは捜査の手を休めない…(裏表紙より)

Fasandraeberne 今作も安定してるわ〜。まず導入部分の気の引き方(つかみ)が上手い。扱われている事件は陰惨だし狂ってもいるが、ユーモアがあるから重くならない。ひとくせあるが優秀な部下が、次々と捜査のお膳立てをしてくれるので、話がずんずん進む。これだけのページ数があるのに「ここは退屈だけど我慢して読み進めよう」と感じるページがない。さらに、サイドストーリーとなる主人公の周りの動向が気になって次も読まざるを得ない仕掛けがある。
エンタメ小説として、個人的には文句なしです。欧州でベストセラーって分かる!
強いて弱点を挙げれば、情緒とか趣みたいなものがとてもあっさりしていることかな。しかし、それも楽しい小説を届けようとする著者の潔さかもしれない。軽そうで、軽いとは言い切れない緻密さがあるんだよね。

2011年12月 4日 (日)

「最初に気づいたのは、異なる空気に漂う異なるにおいだった」〜『シャンタラム』

『シャンタラム』グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ著/田口俊樹訳
(新潮文庫 2011年邦訳)

Shantaram 武装強盗で20年の刑に服していたオーストラリア人の主人公「私」が、刑務所から脱獄し、インドのボンベイ(ムンバイ)に逃亡。そこから始まる数奇な運命…。


翻訳される前から話題に出ていたから、文庫3巻の分厚さにためらうことなく飛びついた。これは本当に圧倒された! 愛について、人を信じることについて、自分の心に素直であることとはどういうことか、思い直してみたくなる傑作だ! 著者の体験をもとに書かれた小説ということだが、改めてその経歴を見たら、脱獄からボンベイでのスラム暮らし、マフィアとともにアフガン・ゲリラに加わったことまで、物語の主人公がたどった運命そのまんまで驚愕しちゃったり笑
本のキャッチコピーにもあるけど、バックパッカーには垂涎の内容であろうことがよく分かるぜー。海外旅行は大好きだが時間も金もなく、いつもガイドブックや旅番組などを見てもんもんとしている自分にも、読書が疑似ツアーのような魅力的体験となった。自分が好んで翻訳小説を読む理由が凝縮された内容ともいえる。


てことで、ディープなインドを満喫しつつも、やはり印象に残るのは登場人物たちだ。まずはリン・シャンタラム(インドでの主人公の呼び名)。地元インド人でさえも足を踏み入れないスラム街、アフガニスタンやパキスタン、イラン、パレスチナ人らで構成されるイスラム系マフィア、華やかなボリウッド、そして、主人公と同様にボンベイに住み着いた欧米人たちが集うカフェ・レオポルド……それら異なる社会にいつの間にか溶け込み、自由に行き来するリンは、とても人好きのする人物だ。彼は、貧富や人種や宗教、さらには犯罪者かどうかまで問わず、一人の人間対人間として接し、そうした人間関係の中で自分の存在の意味をさぐろうとする。人は人によって生かされている、それを実感できる環境に身を委ねることでぞくぞくする喜びを覚える。こうした主人公の抱える「人恋しさ」、そして人間への無防備ともいえる信頼、旺盛な好奇心があってこそ成り立つ物語でもあった。

そして、リンがボンベイに着いた日に出会った客引き兼ガイドのプラバカル。主人公に“リン・シャンタラム”という名前を勝手に押し付けた人物。小柄で陽気で正直者。何もかも包み込んでしまう特大の笑みの持ち主で、それだけでリンは彼のことを愛してしまう。清涼剤的存在だったので、彼のいなくなった後半はまったく違う物語になってしまった気がしたほど。読み終えても、思い出すのは実はプラバカルのことだ。
リンが父親のように慕うマフィアのドン、アブデル・カーデル・ハーンも、最後には強烈な印象を残す。リンが感じたあの失望と怒りは、まさに子が親離れをする瞬間のようではないか。この小説は、リンがインドでもう一つの人生を生き直し、インドが故郷と実感するまでの話でもあった。


もう一つ、胸にひびく言葉がたくさん散りばめられていているのも、この小説のすごみ。実際に著者がまったく異なる文化に飛び込み、おそらく数多くの危険に面してきただろう体験から導き出される言葉は、とても深いのに、とても分かりやすい。
ずいぶん前から映画化の話が進んでおり、主人をジョニー・デップがやるらしいけど、ちょっと待ってと言いたい。ぜんぜんイメージじゃないから。

2011年11月 6日 (日)

「“バーン”の数が多すぎる」〜『冷血の彼方』ほか

『冷血の彼方』マイケル・ジェネリン著/林啓恵訳
(創元推理文庫 2011年邦訳)

凍てつく寒さにおおわれた、スロヴァキアの首都ブラティスラヴァ。発端はハイウェイで起きた自動車の炎上事故だった。女性6人と男性ひとりが死亡。女性はいずれも売春婦で、事件の背後にヨーロッパの人身売買ネットワークの存在が推測された。捜査にあたっていた刑事警察隊警部ヤナは、上司トロカンの命を受け、ストラスブールで開かれるEU反人身売買人権委員会に出席することになるが…。かつての共産主義政権下、想像を絶する苦難の道を歩んできた女性刑事の姿を鮮やかに描く(文庫扉より)

Sirenofthewaters スロヴァキア人の女性刑事ヤナを主人公に、舞台はウクライナのキエフへ飛び、さらにフランスのストラスブールを経て、ニースへと。登場人物もロシア人の警官、アメリカの外交官、欧州議会や国連の関係者など国際色豊かで、警察小説のシリーズ1作目にしては異色の内容。

ヤナはすこぶる優秀な警官で、犯罪現場から事件を推理するのに長けている。そのヤナが追うのは、死んでは生き返る伝説の悪党コバで、まるで(ユージュアル・サスペクツの)カイザー・ソゼのような描かれ方をしている。てことで、骨太小説に見えながらも登場人物はかなりデフォルメされていると思うし、コバと対立する勢力の目的が私にはよく分からないままに終わってしまったが、過去の出来事を引きずるヤナの哀しみを交えて、リーダビリティは高かったと思う。なんといってもヤナがかっこいい。
それでも、最後のほうで死ぬ必要がないと思える人までが死んでしまうのは、ちょっとね…。

あとがきによると、アメリカ人の著者は法学を学び、国務省や司法省のコンサルタントを経て、政府から派遣されてスロヴァキア、パレスチナ、インドシナなどで政府の再編や司法制度の改革に助力してきたとか。国際舞台のミステリを書く人は、こういう経歴の人が多いね。


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『すべては雪に消える』A・D・ミラー著/北野寿美枝訳
(ハヤカワ文庫 2011年)

英国の弁護士ニコラスは、赴任先のモスクワでハンドバッグを奪われようとしている魅力的な若い女性マーシャを助けた。やがて二人は深い関係になり、彼は彼女のおばのアパートを新築のものと交換する法的手続きを手伝うことになる。その一方で彼は、原油ターミナルの建設に銀行から融資をさせる大仕事を進めてい た。だが、彼はずるずると犯罪の中に巻き込まれていくことに…(文庫カバーより)

Snowdrops_2 ミステリ小説ではないけれども、こっちの著者はイギリス人で、「エコノミスト」の海外特派員として2004年から3年間モスクワに滞在。そのときの見聞や体験がそのまま盛り込まれているのかな。石油バブルに湧くロシアでのモラルなき下克上、弱肉強食の社会を生々しく描いていて怖いです〜。イギリス人の主人公が語っていることなので、異国に対する偏見が混じっているのは作風のうちだけれど、モスクワという都市に限れば、これくらい物騒なのもリアルでありかも。

ということで、舞台設定とその描写、何度か出てくるロシアの笑えないことわざなどには満足しつつ。しかし、それ以外は、ロシア美人にのぼせてしまった「ぼく」が、騙されていると気づきながらもずるずると悪に加担、自らも手ひどい目に遭った過去を回想し、それでもモスクワが無性に恋しいなんて言っているウェットな内容で、若干イラっと来た(笑)。自分、女ですから。

原題は「スノードロップ」。雪解けよって現れる死体をモスクワでは陰でこう呼ぶそう。このタイトルは秀逸だ。


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『失踪家族』リンウッド・バークレイ著/高山祥子訳
(ヴィレッジブックス 2010年邦訳)

ある日突然、14歳のシンシアだけを残して両親と兄、一家全員が姿を消した。それから25年、シンシアはわたしと結婚しつつましくも平和な家庭を築いていた。しかし、心の傷が癒されることはなく、彼女はいまも真実を求め続けている。そんななか、あるテレビ番組に出演したことを機に不可解な出来事が起こりはじめ、関係者が次々と殺される。はたして25年前の失踪事件と関係があるのか?(文庫カバーより)


Notimeforgoodbye 原題は「さようならをいう間もなく」という意味かしら。久々にオーソドックスなサスペンス・スリラー小説を読んだなあという印象。しかし、途中である人物が気になって、巻頭の登場人物一覧をじっくり見てしまったのが失敗だった。それ以降、面白さが失速した感あり。想像していたことが早めに裏付けされてしまったというか。あれは親切すぎてネタバレじゃ?

2011年10月23日 (日)

良心の呵責、取り払います 〜『謝罪代行社』

『謝罪代行社』ゾラン・ドヴェンガー著/小津薫訳
(ハヤカワ・ミステリ 2011年邦訳)

失業したクリスら4人の若い男女は、依頼人に代わって謝罪する仕事を始めた。ある日、彼らの一人が指定の場所に行くと、壁に磔にされた女性の死体が! 依頼人は死体に謝罪し、それを録音して送ること、死体を始末することを求めた。家族の身を守るため拒否はできなかった。やがてさらに不可解な事件が起き、彼らを悲劇が襲う…(裏表紙より)

Sorry ドイツ育ちのクロアチア人作家、その目新しさにひかれて読む。
職がない若者たちが主人公なのはタイムリーな気がした。が、彼らが始めた謝罪代行社というのが、現実感に乏しすぎる。そんな仕事に需要はあるのか? 手紙ですませればよくない? しかし、これが大当たりしてしまうらしい。そこから先もよく理解できないことばかり。なんでそういう行動に出るのかなあと感じること多々。終盤、すべての発端となった出来事の主犯らしき男が姿を表すが、これまた深く掘り下げられていない気がしてしまう。

破滅に向かっていく物語がもともと好きじゃないせいもあるだろうけど、むー、すっきりしません。でも、これが英米とは違うドイツらしさか? フランスのミステリ などに近い感じはするので。

ポケミス創刊35周年記念作品にこの作品を選ぶとは、思い切ったことをしたね。ドイツ推理作家協会賞受賞作。

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『文章教室』金井美恵子
(河出文庫)

恋をしたから〈文章〉を書くのか? 〈文章〉を学んだから、〈恋愛〉に悩むのか? 普通の主婦や女子学生、現役作家、様々な人物の切なくリアルな世紀末の恋愛模様を、鋭利な風刺と見事な諧謔で描く…(文庫カバーより)

Bunshokyoshitu 1983年の作品。恥ずかしながらというか、金井美恵子、初めて読んだ。前からエッセイみたいなのは目にしていたけど。
この辛辣なユーモア、好きだわ〜。刊行当初はモデルとなった人物は誰か、いろいろ言われたんだろうけど、その点はそれほど興味を引かない。登場人物、それぞれ与えられた役割を期待通りにこなしてくれて(と読み終わったあとに気付くが、予想していたわけではない)、それが楽しかった。続篇も読んでみようっと。

2011年10月22日 (土)

赤い色って苦いってこと知ってた? 〜『エージェント6』

『チャイルド44』『グラーグ57』に続く、元ソ連国家保安省捜査官レオ・デミドフの物語、完結編!

『エージェント6』トム・ロブ・スミス著/田口俊樹訳
(新潮文庫 2011年邦訳)

運命の出会いから15年。レオの妻ライーサは教育界で名を成し、養女のゾーヤとエレナを含むソ連の友好使節団を率いて一路ニューヨークへと向かう。同行を許されなかったレオの懸念をよそに、国連本部で催された米ソの少年少女によるコンサートは大成功。だが、一行が会場を出た刹那に惨劇は起きた——。両大国の思惑に翻弄されながら、真実を求めるレオの旅が始まる…(文庫カバーより)

Agent6 このシリーズ、毎回ばつぐんに面白くて読ませるのだけど、読者に対しても残酷な仕掛けをしてくる著者のやり口に若干不快感を覚え、この巻を手にすべきかどうかしばらく迷っていたのだ。憎らしいです(笑)。今回もやられた〜。まさかあの人までが、あんなことに…。サディストだろ、トム・ロブ・スミス! でも、本作も面白い! そして、いままでより人間味のある物語になっていた。あれ?

扱われている時代は1965年から1981年まで。ほぼブレジネフ時代。これまでさんざんソ連国内での体制による抑圧を題材として扱ってきたので、扱い尽くしてきたので、本作ではレオを泥沼のアフガニスタンに飛ばして、引き続き心身休まらぬ過酷な状況を与え続けるトム・ロブ・スミスなのだった。レオ、いったい年齢はいくつだ?

そして、本作、国によって自由を奪われているのはアメリカ人も同様なのだった。こういう題材が好きらしいトム・ロブ・スミスは、先日、出版社の招待か何かで来日し、いつか日本を舞台に本を書くことをほのめかしたようだ。どんな不自由な国(すでに決めつけてる)として描かれるのか、恐ろしいな。実現を楽しみにしてる。


おはよう、おばあちゃんたち 〜『ねじれた文字、ねじれた路』

『ねじれた文字、ねじれた路』トム・フランクリン著/伏見威蕃訳
(ハヤカワ・ミステリ 2011年邦訳)

ホラー小説を愛する内気なラリーと、野球好きで大人びたサイラス。1970年代末の米南部でふたりの少年が育んだ友情は、あるきっかけで無残に崩れ去る。 それから25年後。自動車整備士となったラリーは、少女失踪事件に関与したのではないかと周囲に疑われながら、孤独に暮らす。そして、大学野球で活躍したサイラスは治安官となった。だが、町で起きた新たな失踪事件が、すべてを変えた。過去から目を背けて生きてきたふたりの運命は、いやおうなく絡まりあう…。(裏表紙より)

Crookedletter ミシシッピの森林に囲まれた田舎町。地域雇用を支える製材所の経営者の娘が行方不明となり、その騒ぎのさなか、山の湿地で麻薬売人の死体が見つかる。このあたりの風土描写がなかなか読ませて、やはりアメリカ南部の田舎はうす気味悪いミステリの舞台にうってつけだなと思う。
しかし、孤独なラリーの日々の生活の描写、ラリーとサイラスの少年時代の回想にページが割かれはじめると、導入部で想像した小説の類とはまったく違ったテイストを帯びてくる。
凶悪な犯罪組織が浮かび上がるなどのもっと殺伐とした話を想像していたのだが。読み終えてからも、あの最初に殺されていた男にどれほどの意味があったんだろうと思ったりするのだが。でも、これは個人的には良いほうに裏切られたかたちだ。面白かった!

とにかく、長年にわたって周囲から白い目を向けられながらも、真正直に規則正しい生活を送るラリーという人物が魅力的だ。彼はずっと壮絶ないじめにあってきたといっていい。誰もが人生のどこかでラリーのような体験に心あたりがあるのではないか。自分としては、ラリーがティーンエイジャーのときに肝だめし大会でいっとき主役となった場面とその後のクラスメイトたちの反応が、胸に突き刺さった。
本年度の英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー受賞。


2011年9月25日 (日)

狭いコミュニティの濃〜い人間関係 〜『野兎を悼む春』『探偵稼業は運しだい』〜

『野兎を悼む春』アン・クリーヴス著/玉木亨訳
(創元推理文庫 2011年邦訳)

シェトランド署のサンディ刑事は、帰省したウォルセイ島で、祖母ミマの遺体の第一発見者となってしまう。ウサギを狙った銃に誤射されたように見えるその死に、漠然とした疑惑を抱いたペレス警部はサンディとふたりで、彼の親族や近くで遺跡を発掘中の学生らに接触し、事情を探ることに…(文庫カバーより)


Redbones 捜査する側も被害者や事件関係者と古い知り合いだったり親戚だったりする、非常に狭い世界での犯罪を描いているのが個性的な〈シェトランド四重奏〉の第3章。
第1章は島に移り住んできた子持ち画家フラン・ハンターがメイン人物だったが、この章は恋人のジミー・ペレス警部にすっかりその座をとって変わられた。しかし、閉鎖的な島に根ざした犯罪を毎回扱うシリーズなので、流れとしてはこっちのほうが自然。

とても安定感があり、変わらず面白かった。サンディ刑事の初々しさ、自信のなさ、それを見守り必要なときは励ますペレス警部が良かった。こうなってくると、アン・クリーヴスの作品のもつ雰囲気はますますP・D・ジェイムズに似ていると思うのだけど、どうだろう。残念だったのは、サンディ刑事が前作ではどういうふうに描かれていたのかをもう忘れてしまっていたことだなあ。さぞかし頼りない刑事だったろうという気はするけど。


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『探偵稼業は運しだい』レジナルド・ヒル著/羽田詩津子訳
(PHP文芸文庫 2011年邦訳)

仕事を解雇され、やむなく私立探偵となった冴えない中年男、ジョー・シックススミス。口うるさい伯母に厳しく育てられ、いまだ独身。同居人は黒猫のホワイティ。無聊をかこつ彼のもとに、「一族の創設したゴルフ・クラブで不正をしたという疑いを晴らしてほしい」と、一族の跡継ぎが訪ねて来る。この相談が、まさか、こんなことになるなんて!…(文庫カバーより)

Roarofbutterflies 著者のヒルが「ダルジール&パスコーとはまったく違う主人公を描きたかった」と語っていたシリーズ。1作目と2作目はポケミスだったけれど翻訳が途絶えてしまい、最新作の5作目がPHP文庫から登場。しかし、原作も前作(4作目)から約10年を経て書かれたものなので、本当に久々なのだ。

ジョー・シックススミスはアフリカ系の元旋盤工。地元サッカーチームを愛する典型的なブルーカラー気質。イギリスの本格ミステリ小説というと探偵も上流階級というイメージが強く、まずはそこを裏切ってみたところが、設定から遊ぶヒルならではと言える。そのうえで、本作は、主人公とはまったく住む世界が異なる上流階級のセレブ紳士を依頼人として登場させ、愛好するスポーツ、着るもの、食べるもの、乗る車など、両者の隔たりを強調してみせてユーモアを醸す。

と、ここまで書いて、いまどきそんな小説面白いか?と自分でも思うのだけど、主人公をはじめ登場人物を多民族が暮らす現在に置き換えた以外は、ものすごくオーソドックスな英国ユーモア小説に仕上げているところがたぶんユニークなのだ。

原題は〈The Roar Of The Butterflies〉。P・G・ウッドハウスがゴルフを題材にした本の中で「ゴルファーは隣の草地で蝶が羽ばたく音にも集中力を狂わされることがある」と書いていることが題材になっている。ウッドハウスで自分が読んだのは『比類なきジーヴス』のみだけど、ヒルはウッドハウスのユーモアのテイストをかなり意識してこの小説を書いているのではないかしら。

ヒロイン小説 〜『ロザムンドの死の迷宮』『謝ったって許さない』『アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う』〜

ジャンルはばらばら。決めつけるのもなんだけど、明らかに女性受けだろうと思えた3作品。


『ロザムンドの死の迷宮』アリアナ・フランクリン著/吉澤康子訳
(創元推理文庫 2011年邦訳)

ケンブリッジを震撼させた連続殺人は過去のこと。わが子アリーや召使いのマンスールたち、イングランドの地で平穏に暮らしていた女医アデリアは、アリーの父であるロウリー司教に呼び出される。管区オックスフォードシャーにある迷路に囲まれたワームホールド塔で、ヘンリー二世の愛妾ロザムンドが毒を盛られたのだ。最大の容疑者である王妃エレアノールは、幽閉先から姿を消していた。国全体を巻きこむ戦を阻止するべく、アデリアは難事件に立ち向かう…(文庫扉より)

Deathmaze シチリア王国出身の女性検死医アデリア、歴史ミステリシリーズ第2弾。前作『エルサレムから来た悪魔』は個人的にとても面白かった。が、これは、国王お抱えの検死医という身分を隠し、また娘の父親が司教であることを隠して事件解決に奔走する主人公アデリアの、男顔負けの働きが前作ほど華々しくなく、ヘンリーとのロマンスが強調され、ちょい期待はずれ。でも、史実をふんだんに盛り込んでいて、そのあたりの歴史が好きな人には楽しく読めそうだ。

著者アリアナ・フランクリンはこのシリーズ4作目を最後に今年1月、77歳で亡くなられた。もっと若い作家を想像していました。お悔やみ申し上げます。


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『謝ったって許さない』ソフィー・リトルフィールド著/嵯峨静江訳
(ハヤカワ文庫 2010年邦訳)

ミシンと手芸の店を営むステラおばさんの裏稼業、それは女性を苦しめるクズ男に過激な天誅を下すこと! ある日、以前助けた若妻クリッシーが子供を別居中の夫にさらわれたと泣きついてきた。どうやら徹底的なお仕置きが必要ね——だが、その夫は怪しげな犯罪組織と関わっているようで……ヤバい奴らを向こうに回し、 ステラとクリッシーの熱い戦いが始まった…(文庫カバーより)

Baddayforsorry 「ミシンと手芸の店を営むステラおばさん」だと??? 読んだあとにこの描写に気付いてものすごい違和感(笑) いやいや、こんな小説が登場するのって、銃社会、加えて何でもやることが極端なアメリカならではなのではないかな。
主人公のステラは更年期障害に悩む50歳。DV夫を正当防衛において殺害した過去を持ち、今では同じくDVに苦しんでいる女性たちからの依頼を受けて、相手の男性を力ずくで懲らしめる違法すれすれの仕置き人をやっている。そのためにふだんから体も鍛えたりしているんですけどね。

コージーっぽい軽妙な会話と、銃も平然とぶっぱなすバイオレンス描写の両立を、気持ち整理して楽しむことができなかったよ。まだ若く、はすっぱな印象のクリッシーの無謀な行動にはなんの違和感もないのに、肝心のステラについては、なにか腑に落ちない。どうしてだか自分でもわからないけど。
2010年アンソニー賞最優秀新人賞受賞作。


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『アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う』ゲイル・キャリガー著/川野靖子訳
(ハヤカワ文庫 2011年邦訳)

19世紀イギリス、人類が吸血鬼や人狼らと共存する変革と技術の時代。さる舞踏会の夜、われらが主人公アレクシア・タラボッティ嬢は偶然にも吸血鬼を刺殺してしまう。その特殊能力ゆえ、彼女は異界管理局の人狼捜査官マコン卿の取り調べを受けることに。しかしやがて事件は、はぐれ吸血鬼や人狼の連続失踪に結びつく——ヴィクトリア朝の歴史情緒とユーモアにみちた、新世紀のスチームパンク・ブームを導く冒険譚、第1弾…(文庫カバーより)

Soulless 一般的なジャンルはSF・ファンタジーか? 少女漫画タッチの文庫表紙イラストそのまんまのテイストの小説だった笑 これ、このまま漫画作品になってもまったく違和感がない。もともとスチームパンクとは、漫画やアニメにおいて大人気のジャンルらしいけど。

強くて賢い、同性受けする主人公キャラに、シンデレラストーリーをプラスし、時代ファッション、グルメ、ゲイらしき友人を含め、女子に好まれる要素てんこ盛り。バンパイアものが根強い人気があるのは知っていたが、オオカミ男もありなのね。
うん、文句なしに楽しかった! 次作もすでに翻訳出版されているけど、個人的にはもうこれで十分といった感じ・・・年を取るっていやーね。
全米図書館協会アレックス賞受賞作。

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