「ときには、正義は待てない」 ~『真鍮の評決』ほか
『真鍮の評決』マイクル・コナリー著/古沢嘉通訳
(講談社文庫 2012年邦訳)
丸1年、わたしには一人の依頼人もいなかった。だが妻とその愛人の射殺容疑で逮捕されたハリウッド映画制作会社オーナーは弁護を引き受けてほしいという。証拠は十分、アリバイは不十分。しかも刑事がわたしをつけまわす。コナリー作品屈指の二人の人気者が豪華共演する傑作サスペンス…(文庫カバーより)
“リンカーン弁護士”ことミッキー・ハラー・シリーズの第2弾。
このシリーズ1作目はマシュー・マコノヒー主演で映画化されている(日本未公開)。マコノヒーの弁護士役というと「評決のとき」の印象が圧倒的。しかし、リンカーン弁護士シリーズに、ああいう胸がすくようなリーガルサスペンスを期待すると、私みたいに要点がつかめないまま読み進めてしまうことになる。
これって要するに弁護士を主人公にしたハードボイルド小説なんだよね。弁護を引き受けた相手が「実際に罪を犯しているかどうかは関係ない」「裁判は嘘のコンテストだ」と言い放つハラー。情けとは無縁の(特にアメリカの)弁護士というものを、ある面でとてもリアルに表現していて新鮮なのかもしれない。
が、ハラーが、そんなシビアな戦場に身を置く自分を主張しすぎてうぜーと思うことが何度か。そして、法廷シーンがひどく退屈。マイクル・コナリーの小説で、途中で興味が薄れ、読み続けるのが億劫に感じたのは初めてだ。刑事ハリー・ボッシュのシリーズは毎回面白く読んできたのだが…。
本作は、コナリーお得意のどんでん返しにも特に驚きはなかった。読者サービスのように付け足されているボッシュ刑事との因縁も、なんだかなあという感じで。そういえば、これまでのコナリーの作品の主人公が共演する作品に限って、あまり好きではなかったことを思い出した。
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『修道院の第二の殺人』アランナ・ナイト著/法村里絵訳
(創元推理文庫 2012年邦訳)
煙ただよう古都、ヴィクトリア朝エジンバラ。パトリック・ハイムズは修道院で働く妻と、そこの学校の教師だった女性を殺した罪で絞首刑に処された。しかし、彼は妻の殺害は認めたが、第二の殺人は頑として否認したまま死んだのだった。彼の最後の訴えを聞いたファロ警部補は、新米医師である義理の息子のヴィンスと再捜査を始める…(文庫カバーより)
本国ではすでに17作まで出版されているという、ジェレミー・ファロ警部補シリーズの初翻訳。
シュークスピアとチャールズ・ディケンズとウォルター・スコットを愛する(あとがきより)という、そのお定まりすぎる趣味嗜好からして、主人公ファロがどんな人物か、どんなテイストのシリーズか、分かろうというものだ。
読みながら、日本の2時間サスペンスドラマシリーズ(それもちょっとコミカルな要素のあるやつ)が思い浮かんでしまう。設定を少しいじれば容易にドラマの脚本になると。そして結末までも、2時間サスペンスドラマなら真犯人はあの人で、動機はあれ、と想像したとおりに…。真犯人のキャスティングも思い浮かんだが、露骨にネタバレになるから遠慮せねば。
小説としては食い足りなかったので、次は読まないかなぁ。
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『ピアノ・ソナタ』S・J・ローザン著/直良和美訳
(創元推理文庫 1998年邦訳)
深夜ブロンクスの老人ホームで警備員が殴り殺された。手口から地元の不良グループの仕業と判断されたが、納得がいかない被害者のおじは探偵ビルに調査を依頼。かつて探偵の手ほどきをしてくれた老兵の頼みに、ビルは危険な潜入捜査を展開する…(文庫カバーより)
中国系女性リディアと白人中年男性ビルの探偵コンビが活躍するシリーズ第2弾。1996年度シェイマス賞最優秀長編賞受賞作。
リディアが主人公だった1作目は、リディアのキャラクターが普通の女の子すぎて、探偵としての魅力に欠けるという個人的な理由から、あまり面白くなかった(女探偵なら、ちょー勝気な性格だったり、ダラしない人間だったり、暗い過去をもっていたり、ついそんな要素を期待してしまう)。
そこで、このシリーズをいったんは放棄したが、最近のシリーズ作品もとても評判がいいので、思い直して再び手に。
うん、ビルが主人公のほうがたぶん好きだ。内容も面白かった。老人にも街の不良にも、そして野良ネコの親子にも、やさしく温かい。この真っ当さがいいね。
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『わが目の悪魔』ルース・レンデル著/深町眞理子訳
(角川文庫 1982年邦訳)
アーサー・ジョンソンの孤独な日常生活は何者にも妨げられることはなかった。人知れずアパートの地下室で行う快楽の儀式も…。すべてを狂わせたのは新たな入居者、アントニー・ジョンソンだった。発端はこの同姓の若者宛の手紙を、誤ってアーサーが開封したことであった。これがアーサーの隠れた狂気を誘発する…(文庫カバーより)
1976年度CWA賞受賞作。
ふうー、これは名作だった。なんといっても、単に偏屈で臆病な、よくいるタイプの孤独な男に見せかけて、実は異常心理の持ち主であることがヒリヒリと伝わってくるアーサーの人物造形が見事で、心躍る(悪趣味!)。
話の展開が読めない構成も巧み。そしてアパートに同姓の入居者がいる設定を「そこでも生かすのか!」と感心してしまった結末の鮮やかさ。
ルース・レンデルすげ~。まだ4作品しか読んでいないので、これから入手できる限りでコンプリを目指すことにしました。
調べたら、この作品は映画化もされていて、アーサー・ジョンソン役をアンソニー・パーキンスが演じている(日本未公開)。それも主演作としては遺作。晩年もこんな異常者の役をやり続けてなくなったんだ。どんな心境だったんだろうか。楽しみながら演じ続けたならいいんですけどね。
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『新世界より』貴志祐介
(講談社文庫)
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。(文庫カバーより)
2008年の日本SF大賞受賞作。
久々にSF・ファンタジー小説を読んだ〜。面白かった〜。懐かしい田園風景のなかに登場してくる異形のいきものたちの描写が、妙になまなましくて、何晩か夢にまで見た。GW中だったので一気に読めたのが良かった。
一つ気にかかったのは、バケネズミの奇狼丸の最期。あの作戦を奇狼丸自身が思いついたものであったなら、美しい最期という見方もできるが、そうではなかったので、居心地が悪い。しかし、思い返せばこの居心地の悪さは、ひどく醜い生き物として描かれるバケネズミの登場の場面から、その出自が明らかになる終盤まで一貫しているので、作者の狙った効果どおりだったかなという気も。




















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