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つぶやき

2012年5月13日 (日)

「ときには、正義は待てない」 ~『真鍮の評決』ほか

『真鍮の評決』マイクル・コナリー著/古沢嘉通訳
(講談社文庫 2012年邦訳)


丸1年、わたしには一人の依頼人もいなかった。だが妻とその愛人の射殺容疑で逮捕されたハリウッド映画制作会社オーナーは弁護を引き受けてほしいという。証拠は十分、アリバイは不十分。しかも刑事がわたしをつけまわす。コナリー作品屈指の二人の人気者が豪華共演する傑作サスペンス…(文庫カバーより)

Brassvercivk “リンカーン弁護士”ことミッキー・ハラー・シリーズの第2弾。
このシリーズ1作目はマシュー・マコノヒー主演で映画化されている(日本未公開)。マコノヒーの弁護士役というと「評決のとき」の印象が圧倒的。しかし、リンカーン弁護士シリーズに、ああいう胸がすくようなリーガルサスペンスを期待すると、私みたいに要点がつかめないまま読み進めてしまうことになる。

これって要するに弁護士を主人公にしたハードボイルド小説なんだよね。弁護を引き受けた相手が「実際に罪を犯しているかどうかは関係ない」「裁判は嘘のコンテストだ」と言い放つハラー。情けとは無縁の(特にアメリカの)弁護士というものを、ある面でとてもリアルに表現していて新鮮なのかもしれない。
が、ハラーが、そんなシビアな戦場に身を置く自分を主張しすぎてうぜーと思うことが何度か。そして、法廷シーンがひどく退屈。マイクル・コナリーの小説で、途中で興味が薄れ、読み続けるのが億劫に感じたのは初めてだ。刑事ハリー・ボッシュのシリーズは毎回面白く読んできたのだが…。

本作は、コナリーお得意のどんでん返しにも特に驚きはなかった。読者サービスのように付け足されているボッシュ刑事との因縁も、なんだかなあという感じで。そういえば、これまでのコナリーの作品の主人公が共演する作品に限って、あまり好きではなかったことを思い出した。


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『修道院の第二の殺人』アランナ・ナイト著/法村里絵訳
(創元推理文庫 2012年邦訳)

煙ただよう古都、ヴィクトリア朝エジンバラ。パトリック・ハイムズは修道院で働く妻と、そこの学校の教師だった女性を殺した罪で絞首刑に処された。しかし、彼は妻の殺害は認めたが、第二の殺人は頑として否認したまま死んだのだった。彼の最後の訴えを聞いたファロ警部補は、新米医師である義理の息子のヴィンスと再捜査を始める…(文庫カバーより)

Entersecondmurderer 本国ではすでに17作まで出版されているという、ジェレミー・ファロ警部補シリーズの初翻訳。
シュークスピアとチャールズ・ディケンズとウォルター・スコットを愛する(あとがきより)という、そのお定まりすぎる趣味嗜好からして、主人公ファロがどんな人物か、どんなテイストのシリーズか、分かろうというものだ。

読みながら、日本の2時間サスペンスドラマシリーズ(それもちょっとコミカルな要素のあるやつ)が思い浮かんでしまう。設定を少しいじれば容易にドラマの脚本になると。そして結末までも、2時間サスペンスドラマなら真犯人はあの人で、動機はあれ、と想像したとおりに…。真犯人のキャスティングも思い浮かんだが、露骨にネタバレになるから遠慮せねば。
小説としては食い足りなかったので、次は読まないかなぁ。


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『ピアノ・ソナタ』S・J・ローザン著/直良和美訳
(創元推理文庫 1998年邦訳)

深夜ブロンクスの老人ホームで警備員が殴り殺された。手口から地元の不良グループの仕業と判断されたが、納得がいかない被害者のおじは探偵ビルに調査を依頼。かつて探偵の手ほどきをしてくれた老兵の頼みに、ビルは危険な潜入捜査を展開する…(文庫カバーより)

Concourse 中国系女性リディアと白人中年男性ビルの探偵コンビが活躍するシリーズ第2弾。1996年度シェイマス賞最優秀長編賞受賞作。
リディアが主人公だった1作目は、リディアのキャラクターが普通の女の子すぎて、探偵としての魅力に欠けるという個人的な理由から、あまり面白くなかった(女探偵なら、ちょー勝気な性格だったり、ダラしない人間だったり、暗い過去をもっていたり、ついそんな要素を期待してしまう)。
そこで、このシリーズをいったんは放棄したが、最近のシリーズ作品もとても評判がいいので、思い直して再び手に。
うん、ビルが主人公のほうがたぶん好きだ。内容も面白かった。老人にも街の不良にも、そして野良ネコの親子にも、やさしく温かい。この真っ当さがいいね。


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『わが目の悪魔』ルース・レンデル著/深町眞理子訳
(角川文庫 1982年邦訳)

アーサー・ジョンソンの孤独な日常生活は何者にも妨げられることはなかった。人知れずアパートの地下室で行う快楽の儀式も…。すべてを狂わせたのは新たな入居者、アントニー・ジョンソンだった。発端はこの同姓の若者宛の手紙を、誤ってアーサーが開封したことであった。これがアーサーの隠れた狂気を誘発する…(文庫カバーより)


Demoninmyview 1976年度CWA賞受賞作。
ふうー、これは名作だった。なんといっても、単に偏屈で臆病な、よくいるタイプの孤独な男に見せかけて、実は異常心理の持ち主であることがヒリヒリと伝わってくるアーサーの人物造形が見事で、心躍る(悪趣味!)。
話の展開が読めない構成も巧み。そしてアパートに同姓の入居者がいる設定を「そこでも生かすのか!」と感心してしまった結末の鮮やかさ。

ルース・レンデルすげ~。まだ4作品しか読んでいないので、これから入手できる限りでコンプリを目指すことにしました。

調べたら、この作品は映画化もされていて、アーサー・ジョンソン役をアンソニー・パーキンスが演じている(日本未公開)。それも主演作としては遺作。晩年もこんな異常者の役をやり続けてなくなったんだ。どんな心境だったんだろうか。楽しみながら演じ続けたならいいんですけどね。


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『新世界より』貴志祐介
(講談社文庫)

1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。(文庫カバーより)

Shinsekaiyori 2008年の日本SF大賞受賞作。
久々にSF・ファンタジー小説を読んだ〜。面白かった〜。懐かしい田園風景のなかに登場してくる異形のいきものたちの描写が、妙になまなましくて、何晩か夢にまで見た。GW中だったので一気に読めたのが良かった。

一つ気にかかったのは、バケネズミの奇狼丸の最期。あの作戦を奇狼丸自身が思いついたものであったなら、美しい最期という見方もできるが、そうではなかったので、居心地が悪い。しかし、思い返せばこの居心地の悪さは、ひどく醜い生き物として描かれるバケネズミの登場の場面から、その出自が明らかになる終盤まで一貫しているので、作者の狙った効果どおりだったかなという気も。

2012年5月 6日 (日)

超シンプル! 〜「ル・アーヴルの靴みがき」〜

裸眼0.1なのにメガネを忘れて映画館に行ってしまった…。


「ル・アーヴルの靴みがき」(2011年 フィンランド/フランス/ドイツ)

北フランスの港町ル・アーヴル。かつてパリでボヘミアン生活を送っていたマルセル。今はここル・アーヴルで靴みがきの仕事をしながら、愛する妻アルレッティとつましくも満たされた日々を送っていた。しかしある日、アルレッティが倒れて入院してしまう。やがて医者から余命宣告を受けたアルレッティだったが、そのことをマルセルには隠し通す。そんな中、マルセルはアフリカからの密航者で警察に追われる少年イドリッサと出会い、彼をかくまうことに…(allcinemaより)


Le_havre アキ・カウリスマキ監督の最新作。「ラヴィ・ド・ボエーム」の続編的な内容らしい。

何が驚いたってそのテーマのシンプルさ! ラストシーンのあの満開の花の見たときに、これは仏教的な、もしくは日本の古いことわざがベースか。と思ったが、同じような考え方はどこにでもあるね、きっと。そして、つましい庶民の暮らしが、めっちゃ愛おしく描かれている。ここも昔の日本の映画みたいだった。

正直いって、カウリスマキ作品としては物足りなく感じる内容だったが、無言の人物の表情など描写だけで多くを語ってしまおうとするスタイルはブレない。
冒頭、アジア系移民の靴みがき仲間と駅でお客を待つマルセル。しかし、通りすがる人はみなスニーカー。そこにようやく現れた革靴の男がおもいっきり怪しいとか、ニヤリとしてしまう場面は相変わらず多い。そして、相変わらず1本のタバコがうまそう笑 
音楽については、男女の感動的な場面になると、古い映画のBGMみたいなのが流れる。

ところで、白髪リーゼントのロッカー、リトル・ボブを演じたロベルト・ピアッツァって誰?


追記)リトル・ボブは、リトル・ボブの名でル・アーヴルを拠点に長年活躍しているロッカーとのこと。カウリスマキ映画の音楽シーンは、ちょっと凝った「箸休め」みたいもので、これも毎度楽しみだ。

2012年5月 4日 (金)

「あなたは大切な子」忘れないで 〜「ヘルプ 心がつなぐストーリー」

「ヘルプ ~心がつなぐストーリー〜」(2011年 アメリカ)

キャスリン・ストケットの全米ベストセラーを映画化した感動のヒューマン・ドラマ。人種差別意識が根強く残る1960年代のアメリカ南部を舞台に、勇気ある行動で世の中に大きな波紋を投げかけた作家志望の若い白人女性とメイド(ヘルプ)として働く黒人女性たちとの友情の軌跡を綴る…(allcinemaより)


Help 南部のミシシッピ州、「分離すれども平等」の欺瞞がまだ根強く残る時代という舞台設定において、白人と黒人の間に築かれる友情が題材と聞くと、ひねくれものの私は一応警戒してみるのです。安易に泣かせたいだけの映画ではないのかと。ここにも欺瞞を見つけて嫌な気分になってしまうのではないのかと。

で、実際に観たら、泣けた〜笑 隣の席に自分と同世代の、やはり一人で来ていた女性が座っていたのだが、涙を拭うタイミングがいちいち同じで、途中から気まずくなった〜笑

アカデミー賞でもゴールデン・グローブ賞でも、エイビリーン役のヴィオラ・デイヴィスが主演女優賞のノミネートに終わり、ミニー役のオクタヴィア・スペンサーが助演女優賞を獲得って、何か不公平な気がしてしまう。デイヴィスの役柄・演技のほうが好きだった。スペンサーの顔つきや役柄って、昔からアメリカ映画で好まれてきた黒人そのものじゃない? やっぱひねくれてるか、わたし笑


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気づいたら観たい映画がいろいろ上映中で困るよまったく。昨年度の映画賞で話題だった映画もこの時期に集中するからかな。1日2本消化も考えたけど、いまの私には贅沢だってことで、1日1本、厳選していくしかない。

次はアキ・カウリスマキの「ル・アーヴルの靴みがき」。「ブライズメイズ」などコメディー系もたまには観たいし、ロバート・ファン・ヒューリック原作の「王朝の陰謀」、話題の史実を扱った「オレンジと太陽」も気になる。しかし、そんなことを言っていたらアカデミー賞の「アーティスト」は観ないで終わってしまいそう。うん、たぶん観損なうだろうな。その後もアレクサンダー・ペインの「ファミリー・ツリー」、アルモドバルの「私が、生きる肌」などが控えている。忘れないように自分用にメモしておく。

落日のスパイたち~「裏切りのサーカス」〜

「裏切りのサーカス」(2011年 イギリス/フランス/ドイツ)

英国のMI6とソ連のKGBが熾烈な情報戦を繰り広げていた東西冷戦時代。英国諜報部<サーカス>のリーダー、コントロールは、長年組織に潜んでいるソ連の二重スパイ“もぐら”の情報をつかむも独断で作戦を実行して失敗、責任をとってサーカスを去る。コントロールの右腕で彼とともに引退した老スパイ、スマイリー。ある日、英国政府のレイコン次官から“もぐら”を突き止めろという極秘の指令が下る。ターゲットとなるのは、コードネーム“ティンカー”、“テイラー”、“ソルジャー”、“プアマン”という4人の組織幹部。さっそく信頼を置くかつての部下ピーターらと組み、調査を開始するスマイリーだったが…。(allcinemaより)


Tinkertailorsoldierspy 面白かった!! ひさびさの大満足映画だったなあ。
原作が同じく有名なところで、「L.A.コンフィデンシャル」の出来のよさに近いものを感じた。

監督のトーマス・アルフレッドソンはスウェーデン人。ジョン・ル・カレの『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』が原作。ル・カレは製作にも携わっている。

観る前に気になっていたのはゲイリー・オールドマンが超地味男のスマイリーをあの外観でどうやって演じるの?ということだったが、映画としてはちょうどいいくらいの華だったのではないかしら。
また、難解な映画との前評判はともかく、ル・カレの小説自体(この原作は読んでいないけど)、読む人を選ぶというイメージがあり、理解できるのかとの危惧もあったが、映像や音楽があると違うね。セットや衣装、小物なども含めて見事な世界が出来上がっていたし、友情や裏切りといった感情面に重きを置いたエピソードの数々は、意外とシンプルで分かりやすい。どっぷりはまって堪能しました!


冒頭に出てくるのがサーカスのリーダー宅で、自宅なのに仕事の書類で埋まっていて味気ないところが、人生のすべてを国に捧げてきた諜報部員というものだなあと感慨をおぼえ、そこからもう映画の世界に魅せられた。
幹部のスマイリーの下には、その手足となって動くギラムがいて、その下にもっと若いリッキー・ターがいる。それぞれの愛する人への接し方、感情のコントロールが、スパイとしてのキャリアの違いを感じさせて面白かった。ター役のトム・ハーディは前からお気に入りの俳優だけど、ギラム役のベネディクト・カンバーバッチも良かったわ。これからチェックしよう。
もぐらの犠牲となる実動部員を演じたマーク・ストロングが、これまでのイメージと最も違っていたかも。あんな繊細な表情を見せるなんてね。ほかの俳優もひとくせある顔つきばかりで、それぞれが印象に残る。面白い映画の必須条件。


すでにイギリスのスパイなんて米ソから利用される程度のものにすぎなくなっていると、当のイギリスのスパイたちが感じているという時代背景が、実はこの映画の重要なエッセンスになっているのではないかと思う。なのに、孤独に身をおき、命がけのゲームをいまだ繰り広げているというのがたまらなく切ない。

回想で出てくるサーカスのホリデーパーティーの場面で、ロシア国歌を流して盛り上がるのも好きな演出だ。東側と長く接してきたスパイたちにとって、ソ連は嫌いとか、そういう単純な感情の対象ではない。彼らは実は誰よりもソ連マニアだったのだと思う。パーティーの場面ではル・カレ自身も出演していたらしい。

2012年5月 3日 (木)

Big Daddy Kane with special guest Kurtis Blow

4月26日にビッグ・ダディ・ケインを来日ライブをビルボード東京で見る。

これでもオールドスクール世代のラップは当時よく聴いていて、なかでもこの人は、自分にとってそのちょっと後に登場する2パックと並ぶ(ピンのラッパーとしてはだけど)特別な存在だったのだ。なんといってもかっこよかったもん。大人の男のカリスマ性あったよ。LL・クール・Jなんかは目じゃなかったぜ!

先輩ラッパーのカーティス・ブロウと一緒に来日することは前から知っていたが、懐具合等から断念する気でいた。でも、本当に偶然だったのだが、ネットで知ったConnie Price & the Keystonesというバンドの音源をYoutubeで探していて、そしたらビッグ・ダディと共演しているライブ動画があり、なんと彼らも一緒に来日するではないか!ということで、行くことにしたのだ。生バンドがバックならまずはハズレはないと。

Connie Price & the Keystones feat Big Daddy Kane pt1‬
Connie Price & the Keystones feat Big Daddy Kane pt2‬
Connie Price & the Keystones feat Big Daddy Kane pt3‬

ということで、どんなライブだったかは上の動画を参照。
満席とはいえない会場(私が行った回だけど)でコール&レスポンスを長々とやるのは若干さびしいものがあったし、カーティス・ブロウと一緒にステージに立つコラボもなかったけれど、やっぱりビッグ・ダディ・ケインのアダルトな声と、タメのあるラッピングが好きだわ〜。きっちりしたスーツ姿でのステージにまだまだ現役でやるぜ〜という意気込みを感じたね。

対してカーティス・ブロウは全身白ジャージ。ライブ中盤で登場して2曲ほどやったけど、この人のスタイルはまさにパーティーラップで、違いがくっきり。お客をステージに上げてダンスさせたりして盛り上げていた。1曲くらいは2人の共演が見たかったけど、歌での共演と違って、ラップでの即興共演は無理があるよね…。

若かりし日のお二人。
BigdaddykaneKurtisblow




2012年4月21日 (土)

2組の夫婦の対比が面白い 〜「別離」〜

去年の7月で止まっていた映画メモ、再開!となればいいんですけど。


「別離」(2011年 イラン)

テヘランに暮らす夫婦ナデルとシミン。妻のシミンは娘の将来を考え、海外への移住を計画していた。しかし準備が進む中、夫のナデルは、アルツハイマー病を抱える父を残しては行けないと言い出す。夫婦の意見は平行線を辿り、ついには裁判所に離婚を申請する事態に。しかし離婚は簡単には認められず、シミンは家を出てしばらく別居することに。一方ナデルは父の介護のため、ラジエーという女性を家政婦として雇う。ところがある日…(allcinemaより)


Nadersiminseparation アスガー・ファルハディ監督・脚本・製作。昨年のベルリン国際映画祭金熊賞をはじめ、主要な欧米の外国映画賞をほぼ総なめにしたイラン映画が公開。都内ではたった1館って少なすぎるだろ?

ナデルとシミン夫妻はおそらく高学歴で生活にもゆとりがある。古いしきたりにそれほど縛られることもなく、きわめて現代的な考えの持ち主だ。対して、この夫婦とあることをめぐって裁判で争うことになる家政婦のラジエーとその夫は、貧しく保守的。妻はイスラムの戒律に背くことを死ぬほど恐れ、夫は家長としての面子が汚されることに激怒する。結局、この2つの夫婦の対立も平行線のままで、「嘘をついているのはどっちなのか」というミステリー要素もはらみ、会話中心の内容ながら最後まで緊張感を保ち、目が離せない。珍しく映画館で眠くならなかった!

対アメリカ・対イスラエル姿勢を明確に打ち出すなど、何かと話題のイランなので、その国の映画が欧米で評判となれば、イラン・バッシングを増長させる要素をもった内容なのかもと考えていた。たしかに刑罰の重さ、女性の境遇などイスラム国ならではの面はあったが、家族の問題については普遍的で、純粋に映画の出来の良さを評価されたらしいことが分かり安堵。
見終わって印象に残るのは、人知れず苦しんでいた娘のテルメー。両親の離婚に振り回される子供という、最近では忘れがちな、そして珍しくもないためかまずは映画のメインテーマになりにくい題材に思わず感動させられて、むしろすごく平和的な映画じゃないかと、ほのぼのしてしまったほどだ(戦争や犯罪映画、心が病んでる人の映画に比べればってことですが)。

この娘役の子がとても雰囲気が出ていて、あとで調べたら監督の実娘だった。ラジエーの幼い娘役の子も、いかにもイラン映画の子役らしい顔をしていて愛らしい。

映画館を出たところで、若い女性が友人と「ラジエーの行動が理解できない」と腹立たしげに話していたが、いや、あの女性は単に教育が欠けているだけと思えば、理解できる範囲。むしろ、アルツハイマーの義父をおいて離婚をしてまで、娘をつれて国を出たがるナデルのほうが身勝手じゃんと私は感じたけど、イランの国の事情を暗に示しているのかもしれずなんともいえない。ちょっとひっかかるところではありました。

2012年4月 7日 (土)

炎はその命を手放さなかった 〜『火焔の鎖』ほか

『火焔の鎖』ジム・ケリー著/玉木亨訳
(創元推理文庫 2012年邦訳)

「あたしは嘘をついた」新聞記者のドライデンは、知人であるマギーの死に際の告白を聞く。27年前、アメリカ空軍の輸送機が農場に墜落した。彼女は乗客の赤ん坊を助けだしたが、生後2週間の息子は死んだと語っていた。だが実際は自分の息子と死んだ赤ん坊をすり替えたのだ。なぜ我が子を手放したのか? 少女の失踪や不法入国者を取材しながら真相を探るドライデンは、拷問された男の死体を見つけてしまい…(文庫扉より)

Firebaby 観光名所としてはイーリー大聖堂が知られる、イングランド東部の沼沢地帯(フェンズ)の田舎町を舞台にしたミステリシリーズ2作目。1作目は、大洪水に襲われるこのフェンズという土地が、いくら描写されてもイメージしづらかったが、今作は大干ばつによる砂塵嵐が押し寄せてきて、やはりイメージしづらいながらも、泥炭地であることがいろいろやっかいな土地であることは分かったよ。

27年前の飛行機墜落事故、トーチカで見つかる拷問死体、闇で売買される未成年ポルノ、コンテナで輸入されるアフリカ人不法就労者、イラクでの後遺症を抱えているらしきアメリカ兵、前作に引き続き昏睡状態にあるドライデンの妻ローラが残した謎のメッセージ…。盛りだくさんのネタが最後にはひとつにつながって明かされるのがこのシリーズの醍醐味のようだが、ちょっと強引に韻を踏みすぎじゃない?と感じるところがあり(韻というのはキーワードのことだけど)、クライマックスの出来事は、その因果を思い、強烈なインパクトを付与するけれども、あんまり感心はしなかった。

でも、フェンズという馴染みのない土地や、細部の描写などに著者独特の感性が感じられて、不思議な魅力があり、たぶん次作も出たら読むかな。ドライデンとローラのその後も気になるしね。

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『ブラバン』津原泰水
(新潮文庫)

1980年、吹奏楽部に入った僕は、管楽器の群れの中でコントラバスを弾きはじめた。ともに曲をつくり上げる喜びを味わった。忘れられない男女がそこにい た。高校を卒業し、それぞれの道を歩んでゆくうち、いつしか四半世紀が経過していた―。ある日、再結成の話が持ち上がる。かつての仲間たちから、何人が集まってくれるのだろうか。ほろ苦く温かく奏でられる、永遠の青春組曲。(文庫カバーより)

Buraban この本を読もうと思ったのは、自分も高校時代は吹奏楽部だったのと、単行本刊行時の書評にあった以下の本書から抜粋に共感したからだ。
「名曲が郷愁と寸分なく合致した時、それは人を殺すほどの、あるいはもう一度生まれ直させるほどの力を持つ」

ん〜思っていた小説とは違っていた。「僕」が妙にさめているやつのせいか、これならノンフィクション小説のほうがよっぽど盛り上がるんじゃないかと思えるくらい、感動には乏しかった笑・・・私はベタな現実をつきつけられるだけの話などは今さら読みたくないんじゃー!!!
自分のブラバン時代が懐かしくなることもまったくなくあてが外れたが、まあそもそも青春小説と勘違いした私が悪い。
いちばん印象に残ったのは小説の筋ともテーマとも関係のないこの言葉。
「美しい音色は習得できない。出せる人間だけが初心者のうちから出せる」

2012年4月 1日 (日)

北の灯台に光が灯ると、ウナギ岬で誰かが死ぬ 〜『冬の灯台が語るとき』ほか

『冬の灯台が語るとき』ヨハン・テオリン著/三角和代訳
(ハヤカワ・ミステリ 2012年邦訳)

スウェーデンのエーランド島に移住し、双子の灯台を望む「ウナギ岬」の屋敷に住みはじめたヨアキムと妻、そして二人の子供。しかし間もなく、一家に不幸が訪れる。悲嘆に沈むヨアキムに、屋敷に起きる異変が追い打ちをかける。無人の部屋で聞こえるささやき。子供が呼びかける影。何者かの気配がする納屋……そして死者が現世に戻ってくると言われるクリスマス、猛吹雪で孤立した屋敷を歓迎されざる客たちが訪れる… (出版社Webより)

Nattfak エーランド島シリーズ第2弾。前作『黄昏に眠る秋』は個人的には昨年度読んだミステリ小説のナンバーワンだったが、「このミス」誌上で発表された上位54作にも入ってなかったわ。どういうこっちゃ。ぷんぷん。理由を考えてみたけど、一つ思うに、自分の中にこもっていたいダウナーな気分のときに読むとぴったりなんじゃないかってこと。読書するときの気分で小説の印象もだいぶ変わる。

そして、本作も面白かった! 前作との大きな共通点は、エーランド島という舞台(風土や歴史)はもちろん、身内を亡くした人が悲しみから立ち直るまでを描いている点だろうか。いくつものオカルト現象を取り入れているけれど、あと味は悪くない。共通する登場人物は、高齢者ホームに暮らす80歳過ぎのイェルロフで、またしてもいい働きを見せる。登場場面は少ないけれど、読み終わってみればその存在はでかかった。

それにしても、冬のブリザードは過酷だ。舞台となった地域は民家もあまりなさそうなところだし、昔はもっと不便だっただろう。いつもどおりグーグルマップを見ていたら、ウナギ岬に該当する地点に、骨だけになって横たわる古い船の写真が載っていて、あっ!となった。


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『アイアン・ハウス』ジョン・ハート著/東野さやか訳
(ハヤカワ・ミステリ 2012年邦訳)

凄腕の殺し屋マイケルは、ガールフレンドのエレナの妊娠を機に、組織を抜けようと誓った。育ての親であるボスの了承は得たが、その手下のギャングたちは足抜けする彼への殺意を隠さない。ボスの死期は近く、その影響力は消えつつあったのだ。エレナの周辺に刺客が迫り、さらには、かつて孤児院で共に育ち、その後生き別れとなっていた弟ジュリアンまでが敵のターゲットに! マイケルは技量の限りを尽くし、愛する者を守ろうと奮闘する…(裏表紙より)


Ironhouse この作家は『川は静かに流れ』『ラスト・チャイルド』に続いて読むの3作目。作風はどれも違うと思うが、どれも面白くてぐいぐい読ませる! それでも一番好きなのは『ラスト・チャイルド』。本作は凄腕の殺し屋が主人公なので、エンタテインメントと割りきって読むタイプの小説だね。まさか妊娠中のエレナまで、あんなエグい目に遭うとは。ハードでした。
あと、やっぱりアメリカには先住民のタタリみたいなのがあるに違いないと再び思った笑


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『水晶玉は嘘をつく?』アラン・ブラッドリー著/古賀弥生訳
(創元推理文庫 2011年邦訳)

ジプシーの占い師から、水晶玉に将来の姿が見えると言われたフレーヴィア。動揺のあまりちょっとしたアクシデントを起こしてジプシーのテントを炎上させてしまい、自宅の屋敷近くの林へ招待することに。その夜、屋敷に侵入した村の男を追い出したあとで、ジプシーに大変なことが起きているのを発見!…(文庫カバーより)

Redherring 11歳の化学大好き少女探偵フレーヴィアちゃんシリーズ3作目。2作目はいま一つ乗れなかったが、本作で盛り返したかな。本作もミステリ小説として構えると大したことないかもしれない。けど、何かすごくほっとするのだ。特にすぐ上のような小説を読んだ後だと…。作家が高齢で、ちょっと前の時代の暮らし描写の中に、祖父母の話を聞いているような懐かしさがあるせいかもしれない。

姉二人とは犬猿の仲で、「あたしの人生と比べたら、シンデレラなんか甘やかされたちびだ」などと意気がるフレーヴィアの、痛々しいほどの孤独がこのシリーズの基調にある。が、この3作目にしてようやく、いつも子供たちのことは眼中にないような父親や、意地悪な姉たちが、実際にはフレーヴィアの行動を心配しながら見守っていたり、誇りに思っていたりするらしいことが私にもはっきりとわかる部分があった。フレーヴィア目線で語られる物語なので、いままで気づいてなかったよー。(巻末にある中村有希の解説が、このあたりを鋭く突いていて申し分ない)。なかなかしんみりするラストでしたね!


 

2012年3月18日 (日)

東も西も、北も南も、神のものである 〜『わたしの名は赤』『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』

深夜にサッカーばかり見てるせいで電車で居眠り。読書がはかどりません。


『わたしの名は赤』オルハン・パムク著/宮下遼訳
(ハヤカワepi文庫 2012年新訳)

1591年冬。オスマン帝国の首都イスタンブルで、細密画師が殺された。その死をもたらしたのは、皇帝の命により秘密裡に製作されている装飾写本なのか……? 同じころ、カラは12年ぶりにイスタンブルへ帰ってきた。彼はくだんの装飾写本の作業を監督する叔父の手助けをするうちに、寡婦である美貌の従妹シェキュレへの恋心を募らせていく…(文庫カバーより)


Watashinonahaaka 一度は読んでみようと思っていたトルコの作家。『わたしの名は紅』(藤原書店)が新訳で文庫化というので購入。こういうふうにミステリ小説の形式をとっていると、犯人探しの目的ができて、膨大な固有名詞登場に対する素養不足にひるむことなく読み進められるね。
でも、この小説のテーマは犯人探しなんかではなくて、16世紀のオスマン帝国で隆盛をきわめた細密画(ミニアチュール)の名人絵師たちが、自分たちとはまったく異なる技法(遠近法など)で描かれた西欧の絵画を知ることによって起きる心の葛藤。時代の変わり目において、滅びようとするものが最後の輝きを放つかのように、細密画工房の職人たちの修行の様子や、珈琲店に集う人々などイスタンブルの市井がこまやかに描かれていて、そこもまた魅力だ。

イスラム文化圏の絵画芸術についても、ほとんど知らなかったのでとても面白かった。偶像崇拝の禁止はよく知られるところだが、絵画も正当には認められず、その代わりに写本の挿絵(細密画)というかたちで絵画が発展してきた歴史があること。オスマンの細密画は中国とペルシャの系譜にあり、彼の地の高名な絵師の画風を忠実に写しとるのをよしとし、個性を出すのは邪道とされた。それによって、高貴な女性はみな細い目をもつ中国美人に描かれていることなど。

絵師たちが美少年を追いかける楽しみをたびたび語っているが、以前のイスラム圏では、女性を守るという名目でそっちは大目に見られていたらしい。最後の最後で、著者が自分自身をこの小説の中にこっそり忍び込ませていたことを知ってニヤリとする。


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『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』ジュノ・ディアス著/都甲幸治、久保尚美訳
(新潮クレスト・ブックス 2011年邦訳)

オスカーはファンタジー小説やロールプレイング・ゲームに夢中のオタク青年。心優しいロマンチストだが、女の子にはまったくモテない。不甲斐ない息子の行く末を心配した母親は彼を祖国ドミニカへ送り込み、彼は自分の一族が「フク」と呼ばれるカリブの呪いに囚われていることを知る。独裁者トルヒーヨの政権下で虐殺された祖父、禁じられた恋によって国を追われた母、母との確執から家をとびだした姉。それぞれにフクをめぐる物語があった…(書籍カバーより)

Oscarwao
ピュリツァー賞と全米批評家協会賞を受賞作。
少し前に読んだハイチが舞台の探偵小説『ミスター・クラリネット』でデュヴァリエ独裁政権について読み齧り、これは同じ西インド諸島のドミニカ共和国が舞台で、やはり登場する強烈な独裁者トルヒーヨ! 都市に権力者の名前をつける例はほかにもあるけれど、国で最高峰の山を自分の名前に改名してしまうほどだからどれだけやりたい放題だったかうかがい知れるってもんよね。で、半世紀にわたって日本国を相手に訴訟が続けられてきたドミニカ移民も、このトルヒーヨ政権時に渡航したんだと考えると心底ぞっとするわ。

オタクがはまりこむマンガやアニメ、SFやファンタジーには詳しくないので、ドミニカの暗い過去、一家が味わってきた苦難とともに、ポップカルチャーの軽やかさも備えたこの小説の複合的な面白さを感じ取れたかどうかは自信がない。本の帯にある推奨の言葉もあまりぴんと来ないんだけど、知らない国のことが豊富に盛り込まれた小説は好物なので、入り組んだ構成にちょっと戸惑いながらも楽しめた。

抑えつけるものから自由になろうとする中で壮絶な経験をし、アメリカに渡って女手で2人の子供を育て上げたオスカーの母親の描かれ方が強烈だ。そして、主人公のオスカーについては、最後に思わず発見できたものに感動する姿にしんみりきた。この終わり方はよかった。

2012年2月11日 (土)

「だけどこれは求愛行為なんだ」~『破壊者』ほか

『破壊者』ミネット・ウォルターズ著/成川裕子訳
(創元推理文庫 2011年邦訳)

女は裸で波間にただよっていた。脳裏をよぎるのは、陵辱されたことではなく手指の骨を折られたことだった。――そして小石の浜で遺体が見つかる。死体発見現場から遠く離れた町では、被害者の3歳の娘が保護されていた。なぜ犯人は母親を殺し、娘を無傷で解放したのか? 凄惨な殺人事件は、被害者をめぐる複雑な人間関係を暴き出す…(文庫カバーより)


Breaker 欠かさず読んでるM・ウォルターズ。新作登場!といっても『病める狐』や『蛇の形』よりも前の、1998年の作品だった。もっとぽんぽんと出して欲しいな。まあ、未翻訳だった作品といっても内容にそれほど遜色はなく、日本で出版されるだけでもありがたいと思わなければ。

本作はドーセットの田舎警官が主人公の扱いになっていて、警察の捜査を主軸に、最後に真犯人が明らかになるという、割とオーソドックスな形式のミステリー。田舎警官の慎ましやかな恋も描かれる。
にもかかわらず、というべきかどうか、事件関係者の証言の中に「自慰」や「うんち」という言葉が何度も登場するのがインパクト大! もともとウォルターズは、普通なら題材とするのを避けたりオブラートに包んで書くようなことも、さらっとさらけ出してくるのが面白い。こっちのうろたえをよそに、著者自身はいたってクールな様子だ。

終盤は、ちょっとしたどんでん返しが仕組まれているといえるだろうか。事件解決後は一転ほのぼのとした空気に包まれるのだが、それと並行して書かれている真犯人の自白が、子供じみてて拍子抜け。かえって不気味さをあおる。「破壊者」というより「壊れちゃってる人」という感じだよ。
あと、事件解明にはたくさんの偶然が重なっていたことに読み終わって気づく。下手な作家だったらあまりにご都合主義的な作品と言われかねない。でも、ウォルターズは読ませてしまう。出だしで死体が発見されるあたりの目撃者たちの描写はとても生き生きとしているし、最終章では男女のロマンスの合間に小さなクモの死の話を挿入するあたり、本当にうまいと思う。


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『緋色の十字章 警察署長ブルーノ』マーティン・ウォーカー著/山田久美子訳
(創元推理文庫 2011年邦訳)


名物はフォアグラ、トリュフ、胡桃。風光明媚なフランスの小村で、長閑な村を揺るがす大事件が発生する。戦功十字章を授与された英雄である老人が、腹部を裂かれ、胸にナチスの鉤十字を刻まれて殺害されたのだ。村でただひとりの警官にして警察署長のブルーノは、平穏な村を取り戻すべく初めての殺人事件の捜査に挑む…(文庫カバーより)

Brunochiefofpolice フランス南西部ドルドーニュ県、ラスコー洞窟に近い(架空の?)田舎町が舞台。地域の人に愛される交番のお巡りさんみたいな主人公は、独身で、特におばちゃんたちの人気ばつぐん。料理の腕前にもすぐれているのだ。自家製の「胡桃ワイン」てどんな味なんだろう、気になる〜。過去の戦争の傷跡、近年勢力を増している移民排斥などを題材にしながら、ジャンルとしてはコージー・ミステリーに入る作品かな。

著者は英国ガーディアン紙の記者だった人。フランスを舞台にした小説を外国人が書くと、グルメの話題が多くなってしまうのは仕方ないのだろうか。面白いのは、美食のフランスに対して、イギリスの食べ物はなぜあんなにひどいのかを、本書の中で町に滞在するイギリス人女性に弁明させているところね。産業革命によってどこよりも早く工業国になったことが原因らしいよ。


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『装飾庭園殺人事件』ジェフ・ニコルスン著/風間賢二訳
(扶桑社ミステリー 2011年邦訳)

ロンドンのホテルで、男の死体が見つかった。睡眠薬自殺と思われたが、美しい未亡人はそれを否定。遺体は高名な造園家で、いまは地方で装飾庭園を手がけているはずだった。それがなぜロンドンに? 調査をはじめた未亡人の前に次々現われる奇妙な関係者たち。見えてくる夫の知られざる顔。混迷していく真相探し… …そして、全員を一堂に会して驚愕の謎解きが行われるとき、思いもよらぬ世界が現前する…(文庫カバーより)

Knotgarden なんだこれは〜。いまどき翻訳もので「○○殺人事件」なんて題名がついている時点で、ひとくせもふたくせもある小説と気づけよと反省。最初、未亡人が事件の調査を一人の探偵ではなく、ホテルの警備員や精神科医や文学教授など、それぞれ得意分野をもった人を何人も雇って当たらせるところが画期的!なんて考えた自分がおぼこすぎた。こんな結末を読ませられて、感心もしなければ、驚きもない、面白くもなんともないぞー!
訳者あとがきには「西欧の庭園文化史を内包しつつ、英国式庭園の作庭法をそっくりそのままポストモダンなミステリーにインポーズした傑作」とあり、いろいろ難しいことが書いてあって、さらに困惑。


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『暗闇の蝶』マーティン・ブース著/松本剛史訳
(新潮文庫 2010年新訳)


イタリアの山奥、小さな町に私は移り住んだ。表向きは蝶を描く画家、地元の人にはミスター・バタフライと呼ばれている。しかし、実際は闇の世界の罪人。世界中を転々とし、一箇所に留まることはない。とはいえ、そろそろ潮時だ。あと一回だけ仕事を受けて、この町に落ち着こう。そんな折、謎の男が「私」を追い始める。いったい誰が、何の目的で?(文庫カバーより)


Averyprivategentleman 95年に出版された『影なき紳士』の新訳本。ジョージ・クルーニー主演で映画化され、昨夏「ラスト・ターゲット」のタイトルで日本でも公開されたらしいけど、まったく気づいていなかった。スチールだけ見ると原作の雰囲気は出ている。クルーニーが適役かどうかは別として。

特にネタばれというわけではないと思うので書いてしまうと、主人公は暗殺用の銃器作りを請け負う「職人ではなくアーティスト」(先日読んだ『解錠師』を思い浮かべる)。そして「自分は歴史を変える側の人間」を自負している。過去にこなしてきた仕事の自慢話などもあって、まあ鼻持ちならない。

それはさておき、物語は終盤まで特に大きく動くことなく、主人公が身を潜めたイタリア中部の小さな町での、のどかな生活が淡々と綴られる。ワインなどの話も豊富で、イタリアの田舎を謳歌する内容のほうが印象に残る。


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『最低の犯罪』レジナルド・ヒル著/宮脇孝雄ほか訳
(光文社文庫 2000年)

Worstcrime 読み残していたヒルの短篇集。短篇小説の醍醐味をよく理解できない私ですので、大好きな作家といえども、つい後回しにしてしまい、購入したまま忘れていた。最初に収められているダルジール&パスコーのクリスマス作品がいちばん好きだな。どうしても思い入れてしまう。

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